みね乃蔵|八ヶ岳西麓原村|pinot noir


みね乃蔵 小林峰一 沿革

1962年農家で生まれる。高校を卒業するまで原村で暮らしその後上京。35歳のとき自然にできるだけ負荷をかけない暮らしをしたいと考えて原村に帰郷。伐採から始めて手作業で井戸を掘り自分たちで家を建てる。両親が営んでいた鉄線(クレマチス)の栽培を継ぐ傍ら妻と二人で有機農業を始める。山本 博著「日本のワイン」を読んだことがきっかけでワインの奥深さを知り2012年50歳を機に10年計画でワイン醸造所「みね乃蔵」の設立を目指す。
2014年ブドウ用台木の試験栽培開始。
2015年 pinot noir の試験栽培開始。
2020年委託にて初醸造。
八ヶ岳西麓原村が pinot noir の銘醸地となることを夢みている。

2023年8月31日 果実酒製造免許を取得。
ワイン醸造所「みね乃蔵」を手づくりにて建築。 

有機栽培への想い

雨の多い日本の気候風土においてはブドウなどの落葉果樹は有機栽培が難しいと言われています。その理由としては発芽から収穫までの期間が200日以上と長いことと、収穫期が秋雨前線の停滞する時期と重なることが挙げられます。また果樹類は木本ですので病気の原因となる細菌類が木や枝に付着したまま越年することも病気が発生しやすい原因です。

化学的に合成された肥料と農薬を用いずに遺伝子組み換え技術(ゲノム編集も同じこと)を使わない有機栽培は環境への負担が小さい栽培方法ですのでワイン用ブドウの栽培においても有機農法が広がるように栽培技術を高めたいと思っています。

有機栽培の実践で心がけていること、
①観察(萌芽から落葉するまでの間は毎日全部の木を観る)
②原因特定(はっきりしない場合は仮説を立てる)
③将来予測と早めの対応
④結果検証(成功しても失敗しても原因をあやふやにしておかない)
⑤改善策のフィードバック(①から⑤の繰り返しにより本質的な要因をひとつ一つ除去。細かいことの積み重ね。)
⑥圃場内とその周辺に多くの生物が生きられる環境を整える
⑦多用な生物が連鎖的につながることによってつくられる循環の仕組みを活かす
⑧安全性はもとより美味しいブドウを栽培する
です。

2021年はお盆の前から日本列島全域に線状降水帯が停滞して降雨とともに湿度の高い日がしばらく続きました。その影響で果実にまでベト病が拡大。これまで有機JASの基準内で行ってきた栽培ですが、来季に向けて防除計画の見直しを行うことにしました。
見直しの方向性としては、「結実から収獲」までと「収穫後から開花」までを分けて考え、これまで、石灰硫黄合剤だけで対処してきた休眠期の防除体制を、翌年に病原菌を持ち越さない方法へと変更しました。
(2021年以降は必要に応じて殺菌剤も使用しています。)

和食に合わせたワインづくり

四季のある日本では旬の食材を使って季節感のある料理を愉しむ文化があります。2013年ユネスコの世界無形文化遺産に登録された和食は細やかな工程を重ねることによって、味だけでなく彩りの美しいものが多く、やさしい味付けで素材の特色を活かした繊細な料理だと思います。
料理とお酒には相性があります。欧米の料理に合うワインがあるように和食にも合うワインがあります。
樽香は控えめで、きりりと引き締まったキレのよい爽やかな酸があり、ほんのりとだしのような旨味を感じる。そんな繊細で料理に寄り添うようなワインを醸したいと思っています。

栽培について

雨が多く土地が肥沃な日本の風土でワイン用ブドウを栽培するときに問題となるのが樹勢のコントロールです。植物は初め窒素などの養分を使って栄養成長を行います。その後は栄養成長によって幹や枝に蓄えた炭水化物を糖分などに換える生殖成長へと移行して種子となる部分を充実させます。
ところが肥沃な土壌では栄養成長がいつまでも続き生殖成長への切り替えにもたつきます。

良質なブドウを収穫するためには栄養成長から生殖成長への切り替えが速やかに進むようにできるだけ樹勢を抑えた栽培が必要です。また、樹勢を抑えて栽培することにより病気の発生も少なくなると考えています。
(ベト病などは成長点に出るので樹勢が強いと発症しやすいため)

樹勢を抑えるためには台木、畝間、株間、仕立て方、fil de tailleの高さなどの選択が重要になると考えています。

畑(ヴィンヤード)

「縄文ヴィンヤード」、「山窩ヴィンヤード」、「蝦夷ヴィンヤード」、「アイヌヴィンヤード」の4つの畑でブドウを栽培しています。アイヌヴィンヤードでは台木を他のヴィンヤードでは Vitis vinifera 種を栽培しています。標高は1,005m〜1,100mです。ヴィンヤードは地形的に八ヶ岳側(東)から西に向かって緩やかに傾斜しているため各ヴィンヤードでは畝方向を傾斜に合わせて東西方向にしています。

北海道農業研究センター主任研究員 池田成志氏の研究によると植物は夕陽を重要な情報としています。日中の太陽光よりも赤い夕陽は夜の訪れを知らせ植物は夕方の光によって夜間の間に代謝するエネルギーの方向を決めています。日没前にR/FR比(赤色/遠赤色)が高い光が当たると昼間蓄えた光合成による産物(デンプンなど)は夜間に果実や根部で利用されます。一方、日没前にR/FR比の低い光が当たると光合成による産物は葉茎のために利用されやすくなります。植物は朝陽、夕陽といった横から来る光を茎の光受容体を通して感知し情報として活用しています。
朝陽は生産性に影響を与え夕陽は病害虫抵抗性や果部及び根部の品質に大きな影響を与えます。
特に有機農業においては夕陽が良く当たる環境が望ましいと言われています。空は明るいが夕陽が直接見えないような立地条件は日没前にR/FR比の低い光が当たることになるので病害虫に対する抵抗性が低くなります。
縄文ヴィンヤードではこの知見を参考にして2017年の定植から畝方向を東西方向に変更しました。
参考までに記すと夕陽のR/FR比は本州より北海道の方が高く、北海道余市町は夕陽があたる条件としては日本で最高の場所だそうです。

◯縄文ヴィンヤード(36.02a)
 標高:1,005m
 台木:101-14、3309、161-49、188-08
 畝間:1.8m 
 株間:1.2m〜1.8m
 fil de taille:0.6m
 仕立:guyot double(poussard)
 栽培品種( Vitis vinifera)
  pinot noir(679本)
  Zweiigeltrebe(60本)
  Dornfelder(205本)
  Barbera(159本 株間1.8m)
  Chardonnay(57本)

◯山窩(さんか)ヴィンヤード(8.65a)
 標高:1,065m
 畝間:1.8m 
 株間:1.2m〜1.8m
 fil de taille:0.6m
 仕立:guyot double(poussard)
 栽培品種( Vitis vinifera)
  Chardonnay(58本 株間1.8m)
  pinot noir(197本 株間1.2m)

◯蝦夷(えみし)ヴィンヤード(18.17a)
 標高:1,100m
 畝間:1.8m 
 株間:1.2m
 fil de taille:0.6m
 仕立:guyot double(poussard)
 栽培品種( Vitis vinifera)
  pinot noir(110本)

◯アイヌヴィンヤード(台木)
 標高:1,000m
 101-14
 3309
 3306
 188-08
 161-49
 5BB(樹勢強)

醸造について

収穫後は手で除梗してから低温で数日間浸漬した後、できるだけブドウの粒を潰さないように時間をかけてゆっくりと発酵させています。培養酵母は使わず自然酵母だけで醸造するため自然の酵母が活性しやすいような栽培方法と醸造方法を探求し続けています。(2021VTからは自然酵母だけで醸造)

発酵停止後は手動のバスケットプレス機(垂直搾汁)で絞り清澄剤を使わずに重力のみで自然に澱を沈ませてから樽に入れて熟成させます。樽の中で緩やかに熟成が進むことにより収斂味が和らぎ色も安定して、とげとげしさのない美しいルビー色をまとったバランスのとれた味わいとなります。(2022VTまで樽は未使用)
樽材に含まれる極微量の酸素によって、ゆっくりと酸化しながら澱が沈殿するには12ヶ月から18ヶ月ほどの熟成期間が必要となります。また樽熟成中に自然の乳酸菌よってマロラクティック発酵を行うのが理想です。(2020VTはMLFなし、2021VT、2022VTは培養MLF菌を使用してMLFを行いました)
重力による自然清澄(清澄剤未使用、無濾過)と自然乳酸菌によるMLFには、ある程度の時間が必要です。この時間が、長期保存にも耐えられるワインを造るためには必要だと考えています。(樽は国産のものを使用したいと考えています)

亜硫酸の使用についてはワインを長期間保存しておく上での酸化や微生物汚染のリスクを抑えるために必要なものだと考えています。抗酸化物質であるグルタチオンの含有量が多いブドウを栽培することで亜硫酸の使用量をできるだけ抑えながら健全な醸造ができるように栽培と醸造の技術を磨きたいと思っています。
なお、手除梗により不良果は全て取り除いていますので発酵前の浸漬と発酵中の亜硫酸添加は必要ないと考えています。亜硫酸の使用量と添加した工程箇所についてはエチケットの裏ラベルに表記してあります。

乳酸菌によってリンゴ酸(Malic acid)を乳酸(Lactic acid)へと変換させる乳酸発酵 MLF(Malo-Lactic Fermentation)を2021VTより行っています。(2021VT、2022VTはMLF菌を使用しましたが、将来的には自然の乳酸菌でMLFを行う予定です。)


八ヶ岳西麓原村の気候風土


気候風土データー

標高:900m~1200m
年平均気温:9.1℃(4月~10月15.5℃)
年間降水量:1284mm(4月~10月965mm)

原村の土地は全体が凸レンズのような地形になっているので水はけは良好です。集水されにくい地形のため村内には自然の河川は一本(弓振川)しかなく、他はみな農業用水路(汐=せぎ)として江戸時代に近隣の河川(茅野市の柳川と富士見町の立場川)より引き入れられものです。
柳川から取水している水路を「一ノ瀬汐」と言い、立場川から取水している水路は「立場汐」と言います。普通「せぎ」は「堰」の字を使いますが、諏訪地域では「汐」と書きます。
「せぎ」と「ため池」による灌漑とその管理方法は先人たちによる叡智の賜物であり大切な「コモンズ」です。

地質データー

火山山麓扇状地
第四期更新世
火砕流堆積帯(粘土混じりの火山礫)
地表傾斜:8°~12°

夜温の低さ

縄文ヴィンヤードの標高は1,005mあります。夕暮れから早朝にかけて八ヶ岳から冷涼な空気が(冷気)が沢沿いなどを中心に流れ下るので夜になると急激に気温が下がります。
植物は昼間光合成によって炭水化物を作り蓄えますが夜の気温が高いと代謝量が多くなりせっかく作った炭水化物(デンプン)を夜の間に消費することになります。夜温の低い場所で栽培した野菜は糖度が増し味が濃くなることが知られてますがブドウも同じです。八ヶ岳西麓原村では冷涼な気候条件によってヴェレゾーン以後に始まる生殖成長において、それまでに蓄えた炭水化物(デンプン)を無駄なく糖へと変換し味の引き締まったブドウが結実します。

酸を活かしたワインづくり

八ヶ岳西麓原村の冷涼な気候条件はブドウにきちんと酸を残したままワイン醸造に適した糖度まで成熟させることができます。そうした良質なブドウを使うことで補酸することなく酸を活かして寿命の長いワイン造りが可能となります。
ブドウのPHが低い(酸性である)ほど少ない亜硫酸添加量で抗菌活性が得られます。総酸量とPHの関係は必ずしも比例しませんが一般的には酸の多いブドウはPHが低くくなりますので亜硫酸添加量を抑える観点からもブドウ中に含まれる酸の量は大切だと思っています。

産地化について

八ヶ岳の西麓に位置する富士見町、原村、茅野市の標高が800mより高い地域は冷涼な気候を活かすことでワイン用ブドウの産地化が可能になると思っています。2024年1月時点でワイン用のブドウを栽培しているグループは、茅野市で3軒、原村に5軒、富士見町に2軒。そのうち果実酒製造免許を取得しているところは、茅野市で1軒、原村で3軒です。

2023年5月に、長野県の「信州ワインバレー構想」が改定され、「日本アルプスワインバレー」、「千曲川ワインバレー」、「桔梗ヶ原ワインバレー」、「天竜川ワインバレー」の4つの地域に加え、5つ目の地域として「八ヶ岳西麓ワインバレー」が地域指定されました。
ちなみに、水系的にみると富士見町と原村には天竜川水系と富士川水系の分水嶺があり、地形的には、 valley(バレー 谷間)というよりも、piemont(ピエモン 山麓地帯)と呼べそうです。

農村巡耀(のうそんじゅんよう)

日本ではツーリズムを「観光」と訳していますが、この語源については諸説あり、はっきりしないことも多いです。一説では、中国の易経にある「観国之光」が語源とされていますが、中国ではツーリズムのことを「旅遊」と言いますし、日本には漫遊、遊覧、巡覧、巡行などの言葉もあります。

経済成長が進むと共に日本の「観光」は、本来の意味とは違った方向に進んでしまったような気がします。そこで、「観光」に代わる新たな言葉を創ろうと考えました。

社会的共通資本の著者で経済学者の宇沢弘文さんは「観光」の語源は仏典から来ていると言います。僧侶が修行の一番大事な過程で、見知らぬ土地やまち、自然に入り放浪する。そこで、自然や土地の人々の暮らしぶりなど異質なものを観ることで光を得て悟りを開く。それは修行を経て悟りを開く一番大切なプロセスであり、観光の意味はそこにあると説きます。(注1) 

そこで、「観光」を「巡耀」に代えて、地域の文化や歴史、自然や景色、暮らしや生活の知恵など農村の営みの中にある耀きに触れながら巡る旅のことを「農村巡耀」(のうそんじゅんよう)=rural tourismと呼ぶことにしました。

※注1 2002年12月26日、長野県総合計画審議会専門委員会議事録よると、宇沢弘文氏が中村元氏(インド哲学者、仏教学者)からの教えとして発言しています。)

連絡先:〒391-0108 長野県諏訪郡原村13765 携帯 090-2333-3593